2025年10月11日より放送がスタートしたTVアニメ『グノーシア』。
舞台は宇宙を漂う一隻の宇宙船、星間航行船D.Q.O.。人間に擬態した未知の存在「グノーシア」を排除するため、乗員たちは毎日1人ずつ、話し合いと投票によって“疑わしき者”をコールドスリープさせていきます。
しかし、主人公・ユーリは、どんな選択をしても“1日目”に戻ってしまう——そんなタイムリープの渦中にいました。
極限状況の中で交わされる会話を通じて、少しずつ明かされていく乗員たちの本音や秘密。信じるべき相手は誰なのか。何が正しい選択なのか。繰り返されるループの先に待つものとは——。
人狼ゲームをベースにしながらも、SF要素やキャラクタードラマを掛け合わせた独自の体験型ゲームとして熱狂的な支持を集めてきた『グノーシア』。その唯一無二の世界を映像として立ち上げるにあたり、制作陣はどのような試行錯誤を重ねてきたのでしょうか。
第22回は、監督の市川量也さん(ドメリカ)とプロデューサーの木村吉隆さん(アニプレックス)に、作品づくりへの想いやアニメ化ならではの挑戦となったポイントについて語っていただきました。
第19話までの放送を振り返って、お二人が特に印象に残っているエピソードやシーンを教えてください。
市川量也監督(以下、市川)
木村さんからメールをいただいたのがきっかけでしたね。
木村吉隆さん(以下、木村)
はい。ただ最初から『グノーシア』の企画を持ち込むつもりだったわけではなく、ドメリカさんが制作された『ペルソナ』シリーズのオープニング映像や、『CGWORLD』の特集記事を拝見してお声をかけさせていただきました。特に『CGWORLD』の記事で紹介されていた、作画とCGを活用したアニメーション制作のアプローチが非常に興味深く、一度お話を伺いたいと思いまして。
最初のメールでのご依頼の時は『グノーシア』のお話は出ていなかったんですね。
木村
そうなんです。ドメリカさんのスタジオにお邪魔した際は、市川監督が注力しているクリエイティブについて話してくださいました。その中で、オリジナル作品への意欲やSFへの関心があることを伺いまして。そこで「今進めている企画で」と『グノーシア』についてお話ししたところ、「こういう作品をやってみたかった」と言っていただけたんです。
市川
オリジナル作品を手がけたいという想いは、常にあります。そのためにも、原作の魅力を大切にしながら、映像化にあたってアニメならではの表現を追求できる作品に挑戦したかったんです。『グノーシア』はゲームならではの表現方法を持っていて、それをアニメという別の媒体でどう見せるか。そこに挑戦のしがいを感じました。
木村
ゲームとアニメでは、体験が異なります。『グノーシア』は基本的にワンシチュエーション、さらにゲームならではのループ構造を活かした作品なので、それを一本のアニメーションとして再構成する必要がありました。市川監督は、その課題を「こういう技術やアプローチなら、ゲームの魅力をアニメーションでも引き出せるかもしれない」と、非常にポジティブに受け止めていただいたのが印象的でした。
監督は『グノーシア』という作品にどんな印象を持たれましたか?
市川
お話をいただくまで作品を存じ上げなかったのですが、プロジェクトが始動してから、ゲームをプレイしたり実況を見たりしまして。ストーリーの評価が高く、キャラクターの見せ方も魅力的で、良い作品になる予感がありました。ワンシチュエーションという制約も、ドメリカらしさを出す挑戦として面白いと感じましたね。
第1回の川勝さんと木村さんの対談では、「ことりさんに『アニメでは主人公を作りたい』という構想をお伝えするとともに、花田さんのシナリオ作業が平行で進んでいた」とお話しされていましたが、主人公を新たに作るという選択肢以外も検討されたのでしょうか。
市川
主人公をどう扱うかは、花田さんともかなり話し合いました。最初は、完全な一人称視点も検討しましたよね?
木村
はい。VR的な一人称アプローチも考えました。ただ、スマホやタブレットなど、今のアニメの視聴環境を踏まえると、没入感を十分に届けるのは難しいだろうと。それで、ユーリを主人公として配置する方向になりました。
市川
確か、セツを主人公にする案もあった気がします。
木村
結果的にはなくなりましたが、ユーリは登場するけれど、物語の視点はセツに置くという構想ですよね。
ユーリを「応援できる子」にしたいというお話もありました。脚本会議では具体的にはどのようなやりとりがあったのでしょうか?
木村
さまざまな作品を参考に、具体的なキャラクターの例も出しながら、応援できる主人公とはなにかを話し合いました。時には涙を流しながらも前に進む。あるいは、逆境でも明るさを失わず頑張る姿勢を見せてくれるような主人公……そういった子を目指そう、という話になりましたね。
市川
花田さんは本当に作品作りに誠実な方で、常に視聴者の感情の流れを意識されていて。脚本会議でも、学ぶことが多かったです。
全21話という構成はいつ決まったのでしょうか。
木村
終盤だったと思います。実は、アニプレックス内の企画会議の段階では、全体の話数は未確定でした。花田さんからも「書きながら決めたい」というお話があって、2クールには届かないけれど、1クールでは収まらない、その間のどこかになるだろうと。ただマックスでも21話におさまるだろう、という見立てではありました。
市川
話数だけでなく、各話の尺も柔軟に設定しましたね。
木村
今回、第1話や第18話にはCMを入れていません。原作の『グノーシア』は、非常に柔軟な制作体制で作られたインディーゲームです。だからこそ、アニメも話数や尺を型にはめるのではなく、『グノーシア』の世界を表現するためにベストな形を探っていきたいと考えていました。
第20話までをご覧になった方に向けて、特にこだわった部分や課題となった部分を教えてください。
市川
いくつかありますが、大きかったのは、第19話からユーリがセツを追いかける理由をどう描くかです。原作ではプレイヤー自身の「まだ見ていないストーリーを見たい」という動機もあって、トゥルーエンドに向かって進んでいきますよね。でもアニメのユーリには、一人のキャラクターとしての動機が必要になるわけです。
木村
物語の展開として、ユーリはセツに救われていますよね。ユーリがセツを追いかけるということは、その救済を無にしてしまうことになりかねない。それでも信頼する相手のために身を投じられるか。その選択に感情的な説得力を持たせることが、アニメならではの大きな課題でした。
市川
もう一つこだわったのは、宇宙船内の描写です。ゲームでは物語に必要な空間が印象的に描かれていますが、アニメでは視点が自由に動くので、CGで宇宙船全体を構築して、その存在感を表現しています。ワンシチュエーションではあるんですが、その空間を立体的に捉えることで、より没入感のある映像を目指しました。
木村
ロビーの水槽も、市川監督がこだわったポイントとして、ぜひ注目していただきたいですね。原作の水槽の背景から着想を得て発展させた要素で、魚とキャラクターの関係性と対応しているんです。
市川
コンピューターの画面に水の波紋のようなエフェクトを入れたり、部屋の光を揺らめかせたり。そこを踏まえた上で、第1話から観ていただいても面白いかもしれません。
木村
第1話といえば、D.Q.O.の外観から始まる冒頭のシーンもかなり力を入れて作っていただきました。原作が持つSFとしての世界観の広がりを、アニメでも感じていただけたかと思います。
市川
第1話の冒頭は特に、深澤さんの壮大な楽曲に見合う映像を作らなければという意識もありました。プレッシャーでもありましたが、良い緊張感でした(笑)。
木村
音楽もそうですし、原作のキャラクターデザインも本当に魅力的で。それをアニメで動かし、表情をつけていくにあたって、アニメのキャラクターデザインの松浦さんをはじめ、CGチームの皆さんが素晴らしい演出をしてくださいました。原作の魅力を大切にしながら、アニメならではの表現に挑戦できたと思います。
市川監督にお聞きします。今回の制作で刺激を受けたことを教えてください。
市川
本当に、色々な面で刺激を受けました。川勝さんたちプチデポットの4人でゲームを作り上げたという事実もそうですし、それをアニプレックスさんが本気で世に送り出そうとする姿勢にも。実力派のキャスト陣の芝居を間近で拝見できたことも刺激的でしたね。
木村
アフレコは驚くほどスムーズでしたね。これはもう、キャストの皆さんが素晴らしかったとしか言いようがありません。僕は現場で、スタッフの皆さんから刺激を受けることばかりでした。自分の想像を超えるものが、現場で次々と生まれていく。その瞬間を目のあたりにするたび、本当に勉強になりました。
最後に、第20話をご覧になった視聴者の方へメッセージをお願いします。
市川
第19話からは原作とは異なる流れもあり、アニメだから描けた部分もあります。ループものですので、もしよろしければ最初から見返していただけると、新しい発見があるかもしれません。最終話、是非期待していただけると幸いです。
木村
まずは第20話までご視聴いただき、本当にありがとうございます。制作している僕たちも、20話まで進んだ時には「ついにここまで来たか」という感慨がありました。川勝さんとコンテをチェックしている時も、アフレコの現場でも、最終話に向かう特別な空気を感じたことを覚えています。
視聴されている皆さんも、もしかしたら今、同じような気持ちでいらっしゃるかもしれません。僕たちも皆さんと一緒に、この物語の結末を迎える気持ちです。是非、アニメ『グノーシア』の旅路を見届けてください。