2025年10月11日より放送がスタートしたTVアニメ『グノーシア』。
舞台は宇宙を漂う一隻の宇宙船、星間航行船D.Q.O.。人間に擬態した未知の存在「グノーシア」を排除するため、乗員たちは毎日1人ずつ、話し合いと投票によって“疑わしき者”をコールドスリープさせていきます。
しかし、主人公・ユーリは、どんな選択をしても“1日目”に戻ってしまう——そんなタイムリープの渦中にいました。
極限状況の中で交わされる会話を通じて、少しずつ明かされていく乗員たちの本音や秘密。信じるべき相手は誰なのか。何が正しい選択なのか。繰り返されるループの先に待つものとは——。
そんな謎に満ちた物語を彩るキャラクターたちを、キャスト陣はどのように演じたのでしょうか。
第11回目は、沙明役の江口拓也さんにアフレコ現場でのエピソードや演技に込めた想いを伺いました。
原作やシナリオを読んだときの印象を教えてください。
江口拓也(以下、江口)
「人狼ゲーム」って、多くの人が一度は触れたことのある題材だと思うんですけど、そのルールの中でキャラクターたちの背景が少しずつ明かされていく構成が、とても魅力的だなと感じました。単に推理を楽しむだけでなく、それぞれの行動にどんな背景や理由があるのかが見えてくるので、読むたびに新しい発見があるんです。
僕自身、台本をいただいてもその先の展開がまったく予想できないことが多くて、「次はどうなるんだろう?」と毎回ワクワクしながら臨んでいました。
沙明について、最初にどんな印象を持ちましたか?
江口
最初に見たときは、「うわ、めちゃくちゃ自由な人だな」と思いました(笑)。自分勝手に振る舞っているように見える瞬間もありますが、よくよく観察していくと、意志の強さやブレない芯がちゃんとあるんですよね。軽く見えて、実は熱いものを内に秘めている。そのギャップがとても魅力的で、「ああ、このキャラ、好きだな」と素直に感じました。
演技で意識したことや、音響監督とのやりとりで印象的だったことを教えてください。
江口
沙明って、普段は軽口ばかり叩いているように見えるじゃないですか。でも実は意外としっかり周囲を見ていて、決めるべきときにはちゃんと決めるキャラクターなんです。演技については、細かなディレクションはあまりなく、比較的自由にやらせていただいた印象でした。そのぶん、ふざけて見えるシーンとのコントラスト……つまりは“振れ幅”をどう出すかが大事だと思っていて。
観てくださる方にも、彼の内側にある真面目さや誠実さを感じ取っていただけたら嬉しいですし、自分自身も、その幅を楽しみながら演じることができました。
お気に入りのシーンや話数があれば教えてください。
江口
さっきの話にもつながりますが、やっぱり第10話ですね。ユーリとの会話の中で、これまで見せていた軽快さとはまた違う、沙明の真面目な一面が垣間見える回なので。個人的にも大切にしたシーンが多かった印象です。
沙明以外で、特に気になったキャラクターや、印象に残っているキャラ同士の関係性があれば教えてください。
江口
オトメです。すごく人に気を配れるキャラクターで、優しさの中にちょっとした切なさもあって……あそこまで人間味のある感情を表現できるのって、本当にすごいことだと思います。
ちょうど香川に行ったときに、「IruCa(イルカ)」っていうご当地のICカードを見つけて、「これはもう、持つべき人が決まっているな」と思って(笑)。(オトメ役の)花澤さんにプレゼントしました。すごく喜んでくださって、こっちも嬉しくなりましたね。
もしご自身が『グノーシア』の世界にいたら、どんな立ち位置で動くと思いますか?
江口
……正直、あまり役に立たないかもしれません(笑)。みんながバチバチに推理合戦をしている中で、僕は部屋にこもって、できるだけ目立たず、疑われないようにひっそりしている気がします。まさに沙明と同じですね。目立つのは得意じゃないので、留守番とか、裏方のポジションのほうが性に合っているかもしれません。
「このキャラが味方だったら心強い!」と思うのは?
江口
うーん……ラキオかな。あの性格なので敵に回すと厄介だけど、味方だったらすごく心強いと思うんです。言いたいことはズバッと言うし、頭の回転も速いので。でも、話し合いでは真っ先に吊るされがちなんですよね(笑)。
今回、『グノーシア』の現場に参加して、刺激を受けた点を教えてください。
江口
他の方も話されているかもしれませんが、原作チーム代表の川勝(徹)さんが毎回、名古屋から現場に足を運んでくださっていたんです。キャラクターの背景や設定について丁寧に教えてくださって、作品への愛が本当に深い方だなと感じました。
僕が初めて現場に入ったときから、すでにチームの空気ができあがっていて、すごくあたたかく迎えてくださったのも印象的でした。そのおかげで僕もリラックスして、のびのびと自由に演じることができました。
本作では“嘘をつく”“正体を隠す”といった、キャラクター自身も“演じる”シーンが多く描かれています。ご自身が役者として役を演じるうえで、大切にしていることを教えてください。
江口
まず、作品という“大きな料理”の中で、自分がどんな役割を担っているのかを見極めることを大切にしています。
たとえばその料理がカレーだったとしたら、自分は鶏肉や牛肉のようなメインの具材なのか、人参や玉ねぎのように脇を固める存在なのか。もしくはスパイスや隠し味のように、全体の風味を整える立ち位置かもしれない。
どのポジションであっても、自分の役が物語の中でどう機能しているのかを理解すること。それを“手札”として持って現場に臨み、音響監督や共演者と芝居をすり合わせながら形にしていく。そんなスタンスで取り組んでいます。
そうして持って行ったものが、アフレコの中で自分の予想以上に大きく変わることもありますか?
江口
もちろんあります。最初に自分で考えていた方向性から、現場の空気や音響監督のディレクション、他のキャストの芝居に触れて「こうしたほうがいいかもしれない」と変化することも多いですし、むしろそうした変化を楽しめるのがこの仕事の醍醐味だと思っています。
アニメは本当にたくさんの人が関わる“総合芸術”なので、自分ひとりの視点に固執せず、チーム全体の価値観や解釈を尊重しながら芝居をかたちにしていく。そのプロセスそのものの面白さが、自分がこの仕事を続けたいと思える理由にもなっている気がします。
視聴者の皆さんへ、最後にメッセージをお願いします。
江口
まずは、第10話まで観てくださって、本当にありがとうございます。沙明は、最初は“ふざけた奴”と思われがちかもしれませんが、実はそれだけじゃない部分がたくさんあるキャラクターです。第10話では、そんな彼の“素顔”が少しずつ見えてきたと思います。
この先、ユーリと仲間たちがどんな未来を選び、どんな真実にたどり着くのか。僕自身もとても楽しみにしているところです。ぜひ彼らの選択とその行方を見届けてください。